
「血液が、足りていません」
——駅前で受け取った、献血ボランティアのチラシ。
善意のつもりで、指定された住所を訪ねた。
たどり着いたのは、地下のサロン。
紅い絨毯、燭台の灯り、薔薇の香り。
迎えてくれたのは、優雅な令嬢だった。
ソファに座らされ、背後に、彼女が回る。
「ふふ、あなたの血の香り……これまでで、最高♡」
笑った口元に、牙が見えた。
——吸血鬼。
逃げようとしても、扉は、もう閉まっている。
首筋に、牙が沈む。
こく、こく、と血を飲まれる音。
その瞬間、彼女の毒が、体に回りはじめた。
おかしい。血を吸われているのに、気持ちいい。
痺れて、蕩けて、頭の芯まで、甘く痺れていく。
仕事も、家族も、明日の予定も——ぜんぶ、思い出せない。
残ったのは、彼女の声と、吸血音だけ。
抗えない。もう、彼女の毒なしじゃ、何も感じられない。
一度飲まれたら、二度と、元には戻れない。
甘く酔わされて、身体が彼女のものになっていく——。
