どうして、そんなに黒い髪が好きなのかって?
好きに理屈は不要だろう。
それでも、生まれ育った環境は無視できないかもしれない。
なにせ、俺は神社の跡取り息子。
物心着く前から、周りは黒髪ロングの女性ばかり。
初めて好きになった女の子も、黒髪だったくらいである。
きっと血筋からして、もともと黒髪好きだったのだ。
だから、凍死寸前に陥った今――
黒髪美女の幻を見たって、そりゃあ当然ってものかもしれない。
「これ、起きよ。人の身でかようなところに寝ていては凍え死んでしまうぞ」
煩悩を祓うため訪れた永久凍土の霊山で、彼女はそう声をかけてきた。
修行どころか、俺は見事に遭難していたのだ。
それにしても想像したこともないほどの、美女である。その黒髪から、またいい匂いがしたんだよ。
「ああ、どうせ死ぬなら、こんな黒髪の美女と結婚したかった!」
俺は、たまらず彼女にプロポーズしていた。
――数ヶ月後、奇跡的に一命を取り留めた俺は、幼馴染みの巫女さん・鳳月うらら(ほうづき・―)に足を踏まれながら、冷たい視線で睨みつけられていた。
「あなたのお嫁さんっていったいどういうことかしら? 私以外と結婚しようだなんて、寝言は寝て言いなさいっ」
正直、踏まれる痛みより、うららの黒髪がさらさら揺れる方が気になっていたのだが、今はさすがにそれどころではない。
「妾は、岩長ノ銀杏媛(イワナガノイチョウヒメ)。
縁結びの神の一柱として主様の願いを叶え、お……お嫁さんになるために来てやったのであろ。
よもや、も、文句はあるまいな?」
そうか! 神様だったら、仕方ない。
しかも命を救われたお礼に従神として、銀杏さんの神託を叶える手伝いをすることになってしまう。
もっとも、うららは納得してないようだが、俺はもともと黒髪の女性からされた頼まれ事は断れない体質なのだ。
さらには、銀杏さんの妹神である咲耶さん。
神社でおかしな儀式をする、自称・死神に取り憑かれた系女子、厨二病患者の水葉ちゃんも加わってくる。
全員が神で髪!?
イチャラブか? イチャエロか?
4人の黒髪美女に囲まれながら、俺はラブとエッチのご神託に翻弄されることになるのだった。