お母さんはここにいる

「僕らが親子じゃないかも知れない?」唐突にそう告げられて、うろたえる息子、新太(あらた)。
「大丈夫だって。親子に決まってるわよ」と、軽い調子であしらう母、江梨香(えりか)。
一体何があったのか。

病院で赤子の取り違えがあったという。同じ日に生まれた赤ん坊が三人。先日、内一人の子どもが病死した。
その治療の過程で、子と保護者の血がつながっていないことが判明。
育ての子を失った夫婦は、今度は実の子を探し始め、残る二組の親子が急遽血縁検査を行うことになった。
確率は50%だ。

新太は母と病院で検査を受け、家で結果が出るのを待っていた。
母は「自分で産んだのだから分かる」と余裕だが、新太には思い当たる節があり、不安を拭い切れなかった。
新太の目にはもうずっと、母がひとりの、見知らぬ女性のように映っていたからだ。
不安に耐えきれなくなり、涙ながらに自分の思いを吐露してしまう新太。
「僕がお母さんを好きなのは!一人の女性として好きなのは!きっと血がつながっていないからなんだ…!」
それを聞いた母親は、息子に詰め寄り毅然とした口調で言い放った。「私たちは親子よ。それは揺るぎないわ」
それから「来なさい、新太」と泣いてる新太の手を引いて、二階の寝室へと連れていくのであった。

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