――それは、妄執と狂気に至る愛。
昭和二十六年二月。終戦から六年が過ぎた日本。
――逗子行きの列車に一人の男の姿があった。 高城秋五、かつて警視庁に籍を置いていた男。
秋五は退職した自分が何故、逗子くんだりにまで向かうことになったのか、膝の上に置いた
新聞の見出しを見て、眉を顰めてしまう。
【娼婦連続猟奇バラバラ事件】
日本では類を見ない件の事件を、かつての上司、 有島一磨が担当していたことから、この逗子行きが
決まったと言っていい。
「頼まれてくれないか?」
長沙、満州、警視庁でも上司であった、彼の頼 みを断ることは出来ない。 任された仕事は、良家息女の失踪事件………。
――失踪事件のあった上月家で、もう会えない と思っていた恋人、上月由良と全く同じ顔を持つ女性、上月和菜と出会う。
そして消えた姉を 捜し出して欲しいと懇願される。
だが……… 上月夫妻は、秋五へと告げた。 「由良は失踪などしていません。既に亡くなっているのです……」
交錯する虚構と真実。 上野の町を舞台に、今、惨劇の幕が開く――。