人知れず夕日に染まる教室
僕は“彼女”の胸に抱かれていた
外から聞こえる誰かの叫び
言葉にもなっていない、甲高い喚き声
それがどうしようもなく怖くて、目を伏せたくて
「うん……よしよし。お外怖いもんねぇ」
そう。怖い。
逃げたい。見たくない。この人はわかってくれるんだ
甘えるように縋る僕を
彼女は嫌な顔一つせず撫でてくれた
頭を優しく何度も触れられるうちに恐怖心は消え、
胸の奥が幸福に満たされていく
怖かった叫び声も、もう聞こえない
——その時
『ビーーッ! ビーーッ! ビーーッ!』
けたたましい人工音が僕らの平穏を引き裂いた
……ブザー? これ……何のブザーだっけ……?
あまりのうるささに顔を上げ、そして……
見てしまった。窓の外を。僕の街の光景を
不気味に赤く染まった空。地に飛び交う真っ黒い影
……“あいつら”だ。あいつらが街を襲っている。
そして全てを理解した
彼女の表情を照らしていたのは夕日でなく、炎
街の燃える、火
誰かが叫んでいたのは
今、その声が消えたのは
「あっ、また鳴ってるよ? それ」
そうだ、これはアラートだ
誰かが助けを求めているサイン
すぐに反応しなくちゃならない 出動要請
「みんなが君を呼んでるんだね。助けて、助けてー、って」
「ヒーローくんが来るの待ってるんだ」
彼女は外の様子になど気にも留めず
優しげな表情でこちらを覗き込む
にしし、といつもの調子で悪戯っぽく笑うと
その手は再び僕を胸に誘い……
そっと ブザーを鳴らし続けるデバイスを握らせた
そう 僕は……
僕が 今すべきことは……
「ね、これさ」
「うるさいし捨てちゃおうよ」
「うん、捨てちゃえ」