■プロローグ
妹が死んだ。
真夏の暑い日、溺死だった。
それは忘れることの出来ない記憶となって、心に引っ掛かり続けていたけれど。
彼女が生きられなかった分も自分が生きると決めた。
全てを懐かしい思い出として抱き、過去を受け入れ、前に進もうと。
その思いは確かなものだった。
苦しい幼少期から時が過ぎ、毎日変わらず学校に通う日々。
また暑い夏がやってきて、少し“彼女”を思い出した頃。
遠くから聞こえてきたのは、妹が好きだった曲の、ピアノの音。
辿るように歩みを進めた先に、妹がいた。
「これから、よろしくお願いします」
「お兄ちゃん」
妹は死んだ。
その確かな記憶と共に目の前に現れたのは、妹にそっくりなアンドロイド、“トリノ”だった――。