ぬちゃり。
嫌な音を鼓膜に感じて、男は目を覚ました。
いや、もうずっと目は覚めていたのかもしれない。
部屋の中は金色に満ちていた。
夕映え。
くっきりと浮き上がる、何かの姿。
―なんて。
何て美しい、
―ああ…
恍惚と、男はため息をつく。
「綺麗だなあ」
囁く、声。陶然とした、蠱惑的な声。
男の声は柔らかで、穏やかだ。
男は(―男?)夕日に染まった手を伸ばし(―これは)、椅子に座らせた人形を見た。
黄金色の光が、窓から一杯に入り込んでいる。
その神々しい光を、人形は全身に受け止めていた。…
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絶海の孤島に、その屋敷は黒々と聳えていた。
探偵・三津木を招じ入れたのは、妖艶な未亡人と愛らしい双子の兄妹。
誘われるまま、けれど待ち受けていたのは現実と非現実とが入り交じる悪夢の夜。
血の記憶。
肉の温みと、鼓膜をつんざくあの、悲鳴。
いとけない少女の声は、夕映えの中、密やかに囁く。
「お か え り な さ い」